りけいのり

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【腸内細菌】クローン病と腸内細菌の関係 (Part 2)

本日も、りけいのりがお届けします。

 

今回の記事は、炎症性腸疾患の一種であるクローン病と、腸内細菌の関連について迫ります。前回の記事では、腸内細菌は腸内のどの辺りに棲息するのか、腸内細菌は宿主の免疫系とどのように関連しているのか紹介しました。腸内細菌は、宿主にとっては異物でありながら、免疫系の発達には不可欠な存在です。しかし、腸内細菌叢(別名:腸内フローラ)のバランスが崩れると、宿主の健康は害されることになります。

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今回の記事では、はじめにクローン病の概観を述べ、ついでクローン病と腸内細菌の関係について迫ります。

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クローン病ってどんな病気?

クローン(Crohn)病は、患者の中では20歳代に多く、回腸末端部に好発する慢性非特異性肉芽腫性炎症であり、根本治療法が存在しない疾患です*1。肉芽腫性の炎症は、回腸のみならず消化管内全域に渡って確認されていて、痔瘻などを伴うことがあります。

(※回腸とは、小腸の中でも大腸と接続される側を指します)

クローン病は、炎症性腸疾患の一種です。炎症性腸疾患としては、他にも安倍元首相が患う潰瘍性大腸炎や腸結核も含まれます。これらの症状は鑑別が難しいことから、確診(疾患の確定を行う診断)には注意を要します。

 

原因は現在までのところ不明で、宿主の遺伝的要因、腸内細菌叢や細菌感染などの環境要因が相互に関与することで、免疫系に異常が生じていると考えられています*2

症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 腹痛
  • 下痢
  • 発熱
  • 体重減少
  • 裂肛(れっこう):排便時に皮膚が裂けるような痛み、きれ痔
  • 肛門周囲膿瘍:肛門・直腸周囲の化膿とその結果起こる腫れや発熱
  • 痔瘻(じろう):膿が出た後の管やしこり

*3

以上より、難病指定を受けているものの、命に直接の影響は無い病気です。しかし、合併症などのリスクがあるので、注意が必要です。難病は、原因が明らかとなっておらず、今後治療法の確立が求められる、疾患の分類と捉えると分かりやすいかもしれません。

 

直接の原因が明らかとなってはいないクローン病ですが、今回の記事では腸内細菌叢の構成異常(Disbiosis)がクローン病の発症や進行に影響を与えることを示唆する証拠を見ていきます。

クローン病と腸内細菌叢の関わり

まずは、北海道大学大学院、先端生命科学研究院の中村准教授、綾部教授らが率いる研究グループの報告です。

  • 抗菌ペプチドの一種であるαディフェンシンが重要
  • 小腸上皮を構成するPaneth細胞の小胞体に蓄積したストレスにより、αディフェンシンに異常を来す
  • 異常とは、タンパク質のフォールディング(折りたたみ)を誤り、還元型αディフェンシンが生じること
  • 還元型αディフェンシンが腸内細菌叢の構成異常を引き起こし、クローン病と同様の回腸炎を誘発

*4

ここから、宿主側の細胞内小器官へ一定のストレスがかかることで、Disbiosisが誘発され、これに起因してクローン病様の腸管内炎症が引き起こされていることが示唆されました。文末では、以下のように締めくくられています。

本研究成果は,抗菌ペプチドの腸管自然免疫における重要性を明らかにし,炎症性腸疾患であるクローン病だけでなく,腸内細菌叢の異常を伴うことが知られている生活習慣病,難治性免疫疾患をはじめとする多くの疾患の新たな治療法開発に貢献することが期待されます。

本研究結果は、小胞体へのストレスを除去することで、結果として炎症を防げる可能性を示唆しています。

 

続いては、慶應義塾大学の本田賢也教授の研究グループからの報告です。

  • 口腔常在菌クレブシエラ・ニューモニエの腸内への定着が、免疫系の過剰な活性化に関与していることを発見
  • 抗生物質の投与によりDisbiosisが引き起こされることで、クレブシエラ・ニューモニエが腸管内に定着し、炎症性腸疾患の発症に関与する可能性が示唆された
  • ここでは、インターフェロンγを産生するヘルパーT細胞の一種Th1細胞が顕著に増加していた。

*5

ここからも、腸内細菌叢の構成異常(Disbiosis)により通常は生育しない腸内細菌が免疫系に影響を与えることで、炎症が惹起されることが分かります。腸内細菌は、免疫系の発達に重要なばかりか、免疫系が発達後も腸内環境保全の観点から重要であることを示唆しています。

 

最後に、炎症性腸疾患と腸内細菌叢の因果関係に迫る、以下の論文のKey Pointsを引用します。

 Animal studies have elucidated key immunological pathways in the pathogenesis of IBD, established both pro-inflammatory and anti-inflammatory roles of the gut microbiota, and shown that the gut microbiota is indispensable for pathogenesis in most colitis models.

動物実験は、炎症性腸疾患の発病における免疫学的な経路を解明し、腸内細菌の抗炎症作用、炎症惹起作用を説明した。また、腸内細菌はほとんどの大腸炎発症モデルに欠かせない。

*6

もはや、腸内細菌は炎症性腸疾患の主たる要因と考えて良いようです。

 

おわりに

今回の記事では、クローン病、②腸内細菌とクローン病(炎症性腸疾患)の関わりについてそれぞれ概説しました。クローン病の語源は、1932年にニューヨークのブリル・バーナード・クローン医師らによって初めて報告されたことによるのですが*7クローン病も腸内細菌の構成異常が悪さをしているとは夢にも思わなかったことでしょう。

 

今後も、腸内細菌叢にまつわる新たな知見が得られることで、病気に対する私達の見方が変化し、より効果的な治療法が確立することを願っています。

 

以上、りけいのりがお届けしました。

*1:病気が見える Vol.1 消化器 第3版 第2刷(平成20年)、医療情報科学研究所、株式会社メディックメディア、86-89.

*2:クローン病(指定難病96)、難病情報センター、令和2年9月、Accessed: 2021/08/11、URL:

www.nanbyou.or.jp

*3:”CD(クローン病)の症状って?”より一部引用、武田薬品工業株式会社、Accessed: 2021/08/11、URL:

www.ibdstation.jp

*4:参考文献: 抗菌ペプチドの異常による腸炎発症メカニズムを解明~クローン病など腸内細菌の異常を伴う疾患の新たな治療法開発に期待~(先端生命科学研 究院 教授 綾部時芳), 北海道大学, 2020年4月30日, Accessed: 2021/08/16, URL: 

www.hokudai.ac.jp

*5:

2017年度 研究事業成果集 口腔常在菌が炎症性の腸疾患の発症に関与している可能性を発見、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構、平成30年11月15日、Accessed: 2021/08/11、URL: 

www.amed.go.jp

*6:Ni, J., Wu, G., Albenberg, L. et al. Gut microbiota and IBD: causation or correlation?. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 14, 573–584 (2017). 

doi.org

*7:クローン病ってどんな病気?, IBD LIFE, Accessed: 2021/08/11, URL:

www.ibd-life.jp