りけいのり

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【万能指示薬】pH試験紙の科学④【スペシエーション分析】

本日も、りけいのりがお届けします。

 

突然ですが、皆さんは理科の実験で用いた"リトマス試験紙"や"万能指示薬"を覚えていますか? もしかすると、現役で理科の実験に使っているかもしれませんね。

 

化学反応により試料(サンプル)の性質を明らかにする試薬を指示薬と呼びます。ここで、指示薬を利用することはあっても、フラスコの中では何が起こっているのか意識しない人がほとんどでは無いでしょうか。かくいう"りけいのり"も、小中学生の頃に、フラスコの中での出来事をフシギに思うことはありませんでした。

 

それもそのはず、小中学校にて学習する理科の内容では、詳細な化学反応を扱えません。ですから、学校では教えてくれないのです。

 

しかし、"かいつまんでお伝えするのであれば"、色に関する科学を短時間で理解することも可能です。そこで、テーマを"指示薬"に絞ることで(かいつまむことで)、次のことを目指します。

pHの重要性を理解し、pHの簡便な測定指示薬である万能指示薬に詳しくなる。

 ここまでに、次のような内容を学んできました。未だご覧になってない方は、併せてご確認すると理解が深まります。

www.rek2u.com

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本記事は、万能指示薬シリーズの最終回。万能指示薬に用いられる指示薬を概観し、スペシエーション分析を通して万能指示薬の仕組みに迫ります。

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万能指示薬の概観

万能指示薬は、指示薬の混合物に紙を浸漬、乾燥させることで得られる試験紙です。今では、Amazonでも売ってるくらい、一般にも普及しています。

 万能指示薬のルーツは、何と日本にあります。農学博士の山田忍先生が開発された、"山田式指示薬"が基礎となり、様々なpH試験紙に派生していきました。*1

 

農学博士ということで、山田先生の主著を覗いてみましょう。

  • 『肥料不足対策の実際』(柏葉書院、1948年)
  • 『肥料の知識』(北農会、1950年)
  • 『耕土改良の知識』(北方出版社、1954年)
  • 『作物の育つ土と肥料』(農林図書出版社、1962年)

*2

流石は農学博士と言ったところでしょうか。農作物の育つ基盤である土壌への施肥に大きな関心を寄せていたことが伺えます。きっと、土壌のpHを測定する際に、"もっと簡単に土壌pHを測定できないか"と考えたのでしょう。

 

万能指示薬は、大きく以下の4つの指示薬により構成されます

万能指示薬は、チモールブルーメチルレッドブロモチモールブルーフェノールフタレインにより構成される。

前回までの記事で、プロトンとの結合・解離が、分子の共役長を変化させることで、吸光特性が変化することをお話しました。

 

次節では、プロトン解離を記述する上で重要な酸解離定数(pKa)と併せて、各試薬の構造を見ていきましょう。

万能指示薬の中身とスペシエーション分析

まずは、チモールブルー(Thymol Blue)です*3

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チモールブルーの構造と分子量

続いて、メチルレッド(Methyl Red)です*4

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メチルレッドの構造と分子量

続いて、ブロモチモールブルー(Bromothymol Blue)です*5

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ブロモチモールブルーの構造と分子量

最期に、フェノールフタレイン(Phenolphthalein)です*6

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フェノールフタレインの構造と分子量

 続いて、上記試薬の酸解離定数です。

  • チモールブルー: pKa1=1.65, pKa2=8.9 *7.

  • メチルレッド: pKa1=4.95 *8.

  • ブロモチモールブルー: pKa1=7.10 *9.
  • フェノールフタレイン: pKa1=9.4 *10.

ここから、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を基に、プロトン解離の計算をすると、次のようになります。

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ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式により求められた各指示薬のスペシエーション分析結果

ここで、Protonated→プロトン付加体、Deprotonated→プロトン解離体をそれぞれ示しています。酸解離曲線が、pH1-12まで満遍なく横たわることで、各pHにて独自の発色をしていることが分かります。それにしても、酸解離曲線って美しいですね。

おわりに

本記事で、万能指示薬を軸とした、pH試験紙の科学に関する記事連載は完結です。いかがでしたか? 小学生や中学生の頃には想像もできなかった、ミクロでダイナミックな世界がそこには広がっています。

 

この連載を通して、①化学平衡、②色の正体、③指示薬について、皆さまの中で少しでも理解が深まっていたら幸甚です。

 

りけいのりでは、身近な科学に関する疑問、質問を募集しております。ページ上部の問い合わせフォームにて、お待ちしております。

 

それでは、長旅お疲れ様でした。

 

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参考文献

*1:日本国特許第99,664号、1933年2月21日

*2:山田忍, フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』, URL:

ja.wikipedia.org

Accessed: 20210331.

*3:National Center for Biotechnology Information (2020). PubChem Compound Summary for CID 65565, Thymol blue. Retrieved March 31, 2021 from https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Thymol-blue

*4:National Center for Biotechnology Information (2020). PubChem Compound Summary for CID 10303, Methyl red. Retrieved March 31, 2021 from https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Methyl-red

*5:National Center for Biotechnology Information (2020). PubChem Compound Summary for CID 6450, Bromothymol blue. Retrieved March 31, 2021 from https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Bromothymol-blue

*6:National Center for Biotechnology Information (2020). PubChem Compound Summary for CID 4764, Phenolphthalein. Retrieved March 31, 2021 from https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Phenolphthalein

*7:

www.chemicalbook.com

*8:

www.chemicalbook.com

*9:

http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/02217950.pdf

*10:

m.chemicalbook.com