りけいのり

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【ノーベル賞】クリスパーキャス9とは。

本日も、りけいのりがお届けします。

今回は、生化学分子生物学の分野から記事を書きます。

 

 

皆さん、今年のノーベル化学賞の発表はご覧になりましたか?

受賞者は、以下の2人でした。

授賞理由は、

"For the development of a method for genome editing."1)

ゲノム編集の方法論の発展

です。 特に、クリスパーキャス9は、近年の分子生物学では名前を耳にしないことはまずありません。それほどに浸透している技術です。

 

一方、一般の方にとっては、ゲノム編集? クリスパーキャス9? なんだそれは? という感じだと思います。ですので、ここではそのような方に向けて分かりやすく解説します。

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ゲノム編集とは

まず、ゲノム編集とは何か説明します。

ゲノムとは、以下のように成り立つ語です。

 

Genome: Gene (遺伝子) + Ome (全体: 接尾辞)

発音は、ジーノーム。

 

我々の生命情報を司どるのは、お馴染みの DNA (デオキシリボ核酸) です。DNAは、核酸という名前の通り、化学物質の名称です。この世の中に実態があるということです。

 

それでは、遺伝子とは何でしょうか。遺伝子は、遺伝情報 (すなわち我々の生体内で形質を発現する、意味のある情報) のことを指します。遺伝子は、情報です。

 

では、ゲノムとは何でしょうか。ここでは、言葉の成り立ちが伏線となっています。つまり、遺伝子の全体を指すのが、ゲノムです。我々の生命情報を保存するDNA内の全情報こそが、ゲノムなのです。ですので、ゲノムも、情報になります。

 

以下、用語の確認です。

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用語の確認

以上の語は、混同されがちですが、しっかりと区別することが重要です。

 

では、ゲノム編集とは何か。それは、ゲノムを書き換える (DNAにコードされた情報を書き換えること) に相当します。命の性質を、変えてしまうということです

 

興味深くも、恐ろしくもあるこの技術を開発した、2人の科学者に、栄誉あるノーベル賞が与えられたのです。では、どのような方法によりゲノム編集を行うのでしょうか。

 

 

クリスパーキャス9とは

我々の生命情報は、DNA上に物質的に保存されていることは既に述べました。つまり、この物質を改変さえすれば、生命の備える性質は変化することになります。

 

とはいえ、我々が工作を行い、ハサミとテープで切り貼りするようなスケールの話ではありません分子レベルのお話となります。

 

ここで登場する、ゲノム編集を行う技術の名前こそ、クリスパーキャス9です。

正式名称は、以下の通りです。

CRISPR-Cas9

Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats / CRISPR associated proteins)2)

 つまり、CRISPR部Cas9部からなる語です。

 

機能はまさに、標的部に着実に結合して、切断を行う精密なハサミです。これと、その他の操作を組み合わせることで、ゲノム編集が完了します。特に、応用範囲が広く、実験操作も簡単なCRISPR-Cas9は、多くの研究現場にて利用されています3)

 

クリスパーとキャス9のざっくりとした説明です。

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クリスパーキャス9とは

おわりに

ここで、ノーベル賞受賞後の、2人の科学者のインタビューを引用します。

Emmanuelle Charpentier

「私たちに続いて科学の道を歩もうとする若い女性たちにとって、今回の受賞が前向きなメッセージになることを願っています」

(2020年ノーベル化学賞に「ゲノム編集」の研究者2人, NHK) 5)

少し古いデータになりますが、2007年の時点で、高等教育機関における女性教授の数は、男性教授の1/3 程度となっております6)。近年は、ジェンダー論が活発に議論されており、男性社会というシステムが廃れつつあるとは思います。

 

そんな中、今回のノーベル化学賞受賞のニュースは、社会的なインパクトも大きいものと思われます。

Jennifer A. Doudna

ストックホルムにある王立科学アカデミーから早朝に電話を受けて本当に驚きました。私の一番の望みは、研究の成果が、生物学の新たな神秘を解き明かし、人類に恩恵を与えられるような良いことに使われることです」

(2020年ノーベル化学賞に「ゲノム編集」の研究者2人, NHK) 5)

ダウドナ教授がおっしゃる通り、人類の幸福・恩恵のために科学技術は発展するべきです。そのためには、人類の一人ひとりが正しい科学リテラシー、倫理観を備えることが重要となります。

 

分子生物学の発展に大きく貢献した、PCRについて解説した記事もあるので、併せてご覧ください。

rek2science.hatenablog.com

 

以上、りけいのりがお届けしました。

 

 

参考文献

1) The Nobel Prize in Chemistry 2020, The Nobel Prize, Accessed: 2020/10/08

www.nobelprize.org

 

2) DNA二本鎖を切断してゲノム配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができる新しい遺伝子改変技術, 特集:CRISPR-Cas9 とは, コスモ・バイオ株式会社, Accessed: 2020/10/08. 

www.cosmobio.co.jp

 

3) JSTニュース 2018年4月号、遺伝子操作の革命、ゲノム編集、3-4、Accessed: 2020/10/08. 

https://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber/2018/201804/pdf/2018_04_p03-04.pdf

 

4) CRISPR-Casによる ゲノム編集機構の解明 - Japan Prize, Accessed: 2020/10/08. 

https://www.japanprize.jp/data/prize/2017/j_2_achievements.pdf

 

5) 今年の化学賞は? 2020年ノーベル化学賞に「ゲノム編集」の研究者2人, NHK, 2020年10月7日 午後9時23分更新, Accessed: 2020/10/08. 

www3.nhk.or.jp

 

6) 男女共同参画局, 3. 研究分野への女性の参画, Accessed: 2020/10/08. 

http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/sekkyoku/pdf/senmonsyoku/22_ch5-1-3.pdf